> この記事は Product Manager Advent Calendar 2018 の8日目の記事として書かれました。
メルカリでPM(プロダクトマネージャー)をしております、伊藤 宏志(いとうひろし)と申します。社内ではイトヒロと呼ばれてますのでメルカリのイトヒロとご認識ください。
高専から大学編入と技術に触れ続けた学生生活を送り、内定者インターンとして3ヶ月ほどCS(カスタマーサービス) 、そしてメルカリNOWという新規プロダクトの立ち上げPMを経て、今年の4月に新卒としてメルカリに入社しました。
まだまだ若造でadventカレンダーに記入するのすらもおこがましいですが、自分はPMのスキルセットなどではなく、この新卒1年目の振り返りとして、今年の前半に取り組んだプロジェクトの学びをアウトプットしておきたいと思います。
Contents
今回のお題:メルカリで発生する膨大なお問い合わせの発生を抑える
弊社のサービス「メルカリ」は創業から5年目を迎え、爆速で急成長し、累計ダウンロード数は日米英で1億ダウンロードを超え、MAUも1000万人を超えています。
これだけ多くの方にご利用いただいているサービスなのですが、サービスの成長に伴いお問い合わせの数も年々増加していました。
メルカリは365日24時間体制でCS(カスタマーサービス)の社員が対応していますが、それでも今年の前半には問い合わせ件数が膨大になり、お問い合わせをいただいても、返信に時間がかかり、お客さまをお待たせしてしまうという状況が発生していました。
これに対して、問い合わせを減らし、お客さま体験を向上させることを目的としたCREというチームが今年の1月に社内で発足しました。
CREとはCustomer Reliability Engineering(顧客信頼性エンジニアリング)の略で、Googleが提唱した専門職です。
詳しくは尊敬する@bravewoodさんが書いたこちらのブログをご覧ください。
課題に対するアプローチ

「問い合わせが発生するのを減らし、お問い合わせの返信時間を短くする」。
別の例で例えるなら、毎日大量に発生する雪の降る量(発生する問い合わせ)をプロダクト側で減らし、雪かき(問い合わせ対応)のスピードをあげていく状況に似ているかもしれません。
この課題に対して、会社全体で行ったアプローチは以下の2つです。
- 問い合わせの現状を認識し、プロダクトの改善で発生を減らせるものは減らす
- 問い合わせ内容に応じた最適なCSのオペレーションを構築する
社内で、CSとプロダクトが連携して、メルカリのアプリを改善していくプロジェクトが始まりました。
問い合わせ対応の現状の把握
まず最初に行ったのは、カスタマーサービスのオフィスがある仙台オフィスや福岡オフィスにPMが行き、現状のオペレーションや問い合わせの分類方法などを把握することです。
そこから、現在発生している問い合わせの現状を把握し、何が課題なのか、プロダクトをどのように改善することで課題は解決できるかのアプローチを考えます。
その結果、以下のプロダクト側で3つのアプローチを行うことになりました。
- お客さま間でキャンセルできるようにする
- 長期間、受取評価されていない取引を自動完了する
- 振り分け工数削減のためにお問い合わせの導線を改善する
現実的に開発工数やエンジニアリソースを考え、ROIが高そうな施策だけに絞って、施策を実行しました。
施策の実行
ここからは実際にCREチームが主となって、実装にまで至った施策について紹介していきます。
お客さま間の取引キャンセル機能
最初にアプローチしたのは問い合わせのボリュームが一番多かった取引キャンセルに関する問い合わせです。
これまでのメルカリは取引相手との間にトラブルが発生した際は、必ず事務局まで問い合わせをしていただき、カスタマーサービスのメンバーが全てを確認したうえで、キャンセル手続きを行うというオペレーションを実行していました。
しかし、問い合わせの内容を確認すると、すでにお互いがキャンセルに同意している取引が一定数存在することがわかり、お客さま間で同意が取れている場合において、キャンセルが可能となるC2Cキャンセル機能という機能が実装されました。

この結果、カスタマーサービスのメンバーが介入する必要のあるこじれた取引のみが、お問い合わせとしてあがってくるようになりました。
もちろん、これまで大量にお問い合わせいただいていた、キャンセル関連の問い合わせを大きく削減することができました。
受取評価の自動化施策
次に行ったのが受取評価の自動化という施策です。
メルカリの場合は出品者と購入者が存在するわけですが、購入者は商品を受け取ったあとに受取評価というものをする必要があります。これは購入者が実際に商品を受け取り、中身を確認したことを証明するものなのですが、一定数の方が、様々な理由で受取評価をしません。
これらの理由の中には「商品がまだ届いていない」や「受取評価をするのを忘れていた」などのケースが存在します。
それに対し、これまでは長期間、購入者が受取評価をしない場合、出品者側に「事務局にキャンセル依頼をする」というボタンが表示され、そこから、問い合わせがカスタマーサービスに入ってくるという流れをとっていました。

しかし、発生する問い合わせの件数は膨大であり、これでは一件一件確認に時間がかかってしまいます。
そこで、この部分をシステム的に除外できないかということで、USやUKのメルカリでも採用されていたAuto Ratingという仕様を条件を絞って、日本のメルカリにも実装することになりました。
これは一定期間反応のない購入者に対して、「なにか問題ありましたか?問題なければ評価してね。◯月◯日までに反応がなかったら自動的に受取評価しちゃうよ?」というのをアプリのUIを通してお伝えする機能です。


購入者側の画面
この施策により、問い合わせの中でもキャンセルの次にボリュームを占めていた、受取評価希望の問い合わせを限りなくゼロにまで近づけることができました。
お問い合わせ導線の改修
最後に行ったのが問い合わせの振り分け工数をなくすために行った問い合わせ導線の構造を改善する施策です。
これまでのメルカリの問い合わせ導線はサービス開始から5年間改修がされておらず、取引に関連した問い合わせが「その他」というカテゴリに入ってくるなど、今の問い合わせ内容に最適な形の問い合わせ導線になっていませんでした。
そのため、カスタマーサービス内では常に問い合わせを振り分けするという工数が発生しており、結果的にお客さまを長期間おまたせしてしまうことが多々ありました。

そこで、問い合わせ導線を以下のように変更しました。
- 問い合わせの種類に応じて最適なカスタマーサービス窓口に振り分けられるようにする
- 商品IDに紐づく形で問い合わせが入ってくるようにする
- 問い合わせ導線上で自己解決を促す最適なガイドを配置する
- 商品ステータスごとに問い合わせの窓口を変えた(取引前/取引後など)

この結果、振り分け工数が削減され、問い合わせに対する返信スピードを向上させることができました。
目に見えて現れた効果
これらの改善とカスタマーサービス側でのオペレーション最適化も行っていく中で、問い合わせの数も徐々に減っていくのが目で確認できるほどになりました。
こちらの画像が今年前半のメルカリ内で発生した問い合わせ量の推移になります。

プロジェクトをスタートして、今年の夏頃には年初のほぼ半分ほどにまで問い合わせの発生数を抑えることができ、目標としていた数字も達成することができました。
結果として、共に連携しながら数字の改善に取り組んだカスタマーサービスのメンバーがこの期の全社MVPに選ばれ、達成感あふれる期となりました。
今回のプロジェクトから学んだこと
ここからは本プロジェクトを通して学んだことを書いていきます
全てが最初からうまくいくとは限らない
事前に入念に練ってはいましたが機能のリリース直後に、本来想定しなかった挙動を発見し、修正の追加リリースを複数回行いました。
特に受取評価の自動化においては、自動的に受取評価を実行するための複雑なタイマーバッジ周りの挙動を、QAエンジニアの方と一緒にテストケースを整理して進めていたのですが、それでも考慮漏れ等が発生しました。
完璧に作ったつもりの仕様でも、必ずどこか漏れが存在する。それを考慮したうえで、リリース直後に瞬時に問題に対応できるようにカスタマーサービスやエンジニアとの連携を進めて円滑に施策を前に進めていくことがどれだけ重要かを知りました。
スマホのディスプレイの奥には多くの使ってくれている人がいるということ
今回のプロジェクトを通して、メルカリの取引周りというとても影響が大きい部分に手を入れる経験をさせていただきました。
実際にリリースすると、すぐに問い合わせが入ったり、SNSで取り上げられていたりと、リリースした影響をすぐに感じることができました。
そんなタイミングでバックエンドエンジニアの@bravewoodさんに、「リリースするということは世の中に正なり負なり何らかの影響を与えるんだからね。画面の向こう側にはこのサービスを使ってくれている人たちがたくさん実際にいるんだからね」と言われたことが未だに強く印象に残っています。
開発の現場のことを、使ってくれているお客さまはもちろん知りません。
ただ、使ってくれている人のこと常に考えて、機能をリリースする。ABテストなどすることは簡単ですが、それは本当に使ってくれている人にとっては良いものなのか?そこを考えて意思決定することが重要であると思いました。
本来は答えがない問題を解決するのがプロダクトマネージャー
今回のプロジェクトは「問い合わせを削減する」という非常にわかりやすいゴールが存在していました。しかし、今別のプロジェクトに携わる中で感じているのは、PMは本来、答えがわからない課題に対して決断して、ゴールまで持っていくのが仕事であるということです。
売上を伸ばす、顧客体験を改善する、など様々な問題に対して、効果の大きいアプローチを考え、施策に落とし込む。開発周りや分析など様々なことを把握したうえで、多くの関係者とより良いコミュニケーションをとる。そして、そのすべての決断と結果に責任を持つ。これがプロダクトマネージャーだと思います。
現在、私はメルカリのCX改善領域であるNPS(Net Promoter Score)という顧客満足度の数値改善に取り組んでいます。
正直、問い合わせを減らすという課題よりも難しい課題だと感じていますが、様々な仮説を立てて、どのようなアプローチでいくべきかを日々チームメンバーと一緒に考えています。
まとめ
今回はアドベントカレンダー2018用に、新卒PMとして取り組んだメルカリの問い合わせ削減に挑んだ施策について記事を書かせていただきました。
誤解のないように補足させていただきますが、このプロジェクトは、僕だけではなく、このプロジェクトに関わったCREのチームの皆さん(PM, Backend, iOS, Android, Frontend, QA)やカスタマーサービスの全員が連携し、社内一丸となって取り組んだことで達成できました。
まだまだ新米ですが、今後も様々な課題に対して、全てを横串にさせる施策を考え、実装のディレクション、リリース後の分析までより高い精度で行っていけるプロダクトマネージャーになっていきたいと思います。
メルカリでは共にサービスを成長させていける、新卒メンバーを通年で募集をしております。興味ある方は応募もしくは、Twitterなどで直接連絡ください。
長々とまとまりのない文章になってしまいましたが、最後まで見ていただきありがとうございました。